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解雇が自由になれば、賃金は上がるのか

解雇規制が緩和されて、使用者が労働者を自由に解雇できるようになれば、本当に賃金は上がるでしょうか。

高い能力を期待して高待遇で労働者を雇い入れたにもかかわらず、予想に反して能力が低かった場合に、賃金減額ができず、解雇もできないとすれば、使用者は適正額を超える賃金を払い続ける負担を負うことになります。そうすると、使用者としては、賃金を上げるのに二の足を踏むことになります。
ところが、労働者を自由に解雇できる場合、高待遇で雇い入れた労働者の能力が実際には低かったことが判明すれば、その労働者を解雇すればよいわけですから、高待遇を設定するハードルが下がります。
このように考えると、解雇が自由になれば、賃金が上がりそうにも思います。

しかし、個人的には、解雇が自由となったからといって、それだけで賃金が上がるとは考えにくいように思います。

上述した高待遇での雇入れのリスクに関しては、雇入時の賃金はやや低めに設定しておき、一定期間(例えば、数か月の試用期間等)が経過した後、その労働者が十分な能力を有しており、人格的にも問題がないと判明した時点で、予定していた高待遇に変更する(賃金を上げる)ということもできるでしょう。これにより使用者はリスクを相当程度回避できると思われますが、そのような形で賃上げを実現しようとするケースは稀だと思います。実際、日本企業において長期間継続勤務している従業員であれば、使用者(上司)はその人格や能力を十分把握できているはずですが、だからといって、スムーズに賃上げが行われているかといえば、必ずしもそうではないでしょう。
もちろん、会社に利益が出ていなければ、従業員の個人的な能力がいくら高くても賃上げはできないと思います。しかし、利益が出ている会社であっても、様々な理由を述べて容易に賃上げは行われず、むしろ、正規雇用が非正規雇用にどんどん置き換わっていっているのが実情ではないでしょうか。

ごくごく単純に言えば、会社としても、「払わなくて済むものなら、払いたくない(払わない)」ということではないかと思います。
能力が高い従業員であっても、今と同じ(低い)賃金でこれからも働いてくれるなら、使用者には、大幅に賃金を増額するインセンティブは働きません。使用者に賃金増額のインセンティブが働くとすれば、「賃金を上げなければ、従業員の採用ができない(入社してもらえない)」とか、「賃金を上げなければ、条件の良い他社に転職されてしまう」という場合でしょう。要するに、賃金を上げざるを得ない場合です。
だとすれば、使用者に解雇の自由があるか否かが問題なのではなく、労働者に多様な選択肢があり、会社間で労働条件等につき競争原理が働くことが必要ではないかと思います。

日本人は、横並び意識が強く、良くも悪くも控えめで、上昇志向があまり強くない方が多いことに加え、新卒一括採用、終身雇用(長期継続雇用)を基調とする日本型の雇用システムの下においては、上記のような形で競争原理が働くようになるのは、なかなか容易なことではなさそうです。

2022年6月28日

賃金減額ができないから、賃金が上がらないのか

日本の賃金が上がらない別の理由として、「一度賃金を上げてしまうと、その後に減額できないから」ということも言われています。企業業績が良くなった時に賃金を上げると、その金額が固定化され、業績が悪化した時に重荷になってしまうので、安易に賃金を上げられないというわけです。
賃金減額に関する法的な規制について、国際比較をした資料が見当たりませんでしたので、諸外国のことは分かりませんが、日本の裁判実務の感覚だと、裁判所は賃金減額に対して厳しい判断(=使用者による一方的な賃金減額は無効とする判断)をする傾向が強いように思いますから、上記のように言われると、「なるほど」と思う部分もあります。

しかし、日本よりも「契約」という概念が根付いているであろう諸外国において、雇用契約で定めた賃金額を使用者の一方的都合により減額することが日本よりも容易に認められるとは、やや考えにくいように思います。
したがって、「賃金の減額ができない」というのが日本固有の問題なのではなく、諸外国と違いがあるとすれば、企業業績が悪化した場合の整理解雇の認められやすさの差(解雇規制の問題)ではないかと思われます。

従来、日本においては、景気や企業業績の変動に対する対応は、労働者数の増減(解雇)によってではなく、時間外労働の調整によって行われていると言われていました。また、企業業績を反映させる方法として、賞与が用いられることが多いと思われます。
しかし、労働者に「時間外労働をさせろと言う権利」はありませんし、賞与は使用者による査定等を経た上で初めて具体的金額が確定するのが通常であって、特段の事情がない限り、使用者による査定等もないままに、裁判所が特定の金額の支払いを命じることはありません。そうだとすれば、これらについては、「業績が良い時に支払ってしまうと、その後に減額できない」という事態は発生せず、日本の雇用法制を前提としても、引き続き、バッファーとしての機能を果たし得ることになります。

したがって、基本給等の固定的な給与部分(毎月決まって支払われる賃金)のことだけであれば別として、賞与や時間外手当等も含めた賃金総額に関してまで、「一度金額を上げてしまうと、その後に減額できない」「だから、企業業績が良い時でも、賃金を上げられない(上げない)のだ」と言っているのだとすれば、その説明は誤りであろうと思いますし、また、そのようなことを言っていては、いつまで経っても日本の経済は良くならないのではないかと思います。

ここでも、強すぎる「イメージ」が問題なのかもしれません。

2022年6月27日

日本の解雇規制は厳しすぎるのか

日本の賃金が上がらない理由として、「諸外国と比べて、日本では、解雇規制が厳しすぎるからだ」とか、「もっと自由に従業員を解雇できるようにするべきだ」などという意見を見ることが多くなってきたように思います。
解雇規制を緩和すれば本当に賃金水準が上がるかどうかはひとまず措くとして、「諸外国と比べて、日本では、解雇規制が厳しすぎる」というのは、本当でしょうか。

この点に関し参考になるものとして、OECDが作成する雇用保護指標があります。
雇用保護指標は、解雇手続や解雇の困難性等の項目ごとに規制の強さを0〜6点で評価し、これをウェイト付けして指標化したもので、数値が大きいほど、解雇規制が強い(雇用が保護されている)ことを意味します。
2019年の数値では、正規雇用については、平均は2.27(最高3.03(チェコ)、最低0.85(コスタリカ))で、日本は2.08(42か国中28位)でした。つまり、この雇用保護指標による限り、日本の解雇規制の強さは、主要国の平均値を下回っているということになります。
ちなみに、他の主立った国では、イタリア2.86、フランス2.68、スペイン2.43、韓国2.35、ドイツ2.33、イギリス1.90、オーストラリア1.70、カナダ1.68、アメリカ1.31だったようで、大陸法系の国で高く、英米法系の国で低い傾向にあるように思われます。

もちろん、上記の雇用保護指標は1つの参考資料にすぎないものであり、これが絶対というわけではありません。
また、一口に解雇規制といっても、解雇の局面によってその強さは異なり得ます。例えば、いわゆる整理解雇については、ジョブ型雇用を前提とする諸外国では正当な解雇と認められやすいものの、メンバーシップ型雇用を前提とする日本では認められにくいと言われています。
このため、立場や見方によっては、日本の解雇規制が強いか否かについて、異なる結論に至る場合もあるでしょう。
ただ、少なくとも、国際的に見て、アメリカが平均的というわけではないので、アメリカ(多くの国と異なり、解雇に正当な理由が必要とされない)との比較だけを念頭に置いて、「日本は解雇規制が厳しすぎる」と言うのは、誤りのもとであろうと思います。

とはいえ、我々日本人の中に、「日本は諸外国と比べて解雇規制が厳しい」というイメージがあるのも、事実でしょう。
ひょっとしたら、この固着した「イメージ」こそが問題であり、状況を動かし難いものにしている一番の要因なのかもしれません。

2022年6月24日

合成の誤謬

「合成の誤謬」とは、個々(ミクロ)のレベルでは合理的な行動であっても、それが合成された全体(マクロ)で見ると悪い結果をもたらしてしまうことを言います。
よく挙げられる例として、「ある個人が節約して貯蓄に励むと、その個人の貯蓄額は増えるが、社会全体が節約志向になると消費が減退し、国民の総所得が減ってしまう」というものがあります。これは、先日の物価上昇に関するコラムで、私が懸念していたことそのものですね。

よく似た話として、「囚人のジレンマ」というものもあります。
これは、ある犯罪(本件)で逮捕された2人の共犯者AとBが別件に関して意思疎通できない状態で別々に尋問を受け、「2人とも別件について黙秘すれば、別件については証拠不十分となって、本件で懲役2年の刑となる。しかし、別件について1人が黙秘し、もう1人が自白した場合には、自白した者は情状酌量により不起訴(刑罰なし)となる一方、黙秘した者は本件と別件で懲役10年となる。また、2人とも自白した場合には、若干の減刑がなされて、本件と別件で懲役5年となる。」というような司法取引が持ちかけられたとすると、Aとしては、Bが黙秘した場合でも自白した場合でも、自分は自白した方が有利であり(ナッシュ均衡)、これはBも同じであるから、2人とも黙秘するのが全体としては最も利益がある(パレート最適)にもかかわらず、結局、2人とも自白してしまう、というものです。

税金によるバラマキや、必要性の乏しい者に対する保険給付など、全体の負担で個々に対する給付がなされる場合は、自分だけが「その制度はおかしい」「無駄な給付はやめるべきだ」と反対しても、その制度が実行されれば、結局、その費用は、後の増税等で自分も負担させられることになります。
このため、個々人のレベルでは、「それであれば、自分も給付を受領しておかないと損だ」という判断となり、結果、その制度は実行されて、最終的には、実行コストも含めた費用負担が全員に跳ね返ってくる(実行コストの分だけ全員が損をする)ということになりそうですが、同様のことは、様々なところで生じていそうに思われます。

あるサイトでは、新型コロナウィルス感染症対策に関し、皆が外出自粛をして早期収束を実現するか、外出して外出の喜びを得るかという場合にも当てはまると説明されていました。
例えば、新型コロナウィルス感染症の早期収束による利益を10、外出できた場合の喜びを5とします。この場合、自分が外出自粛し、社会全体も外出自粛してコロナが早期収束すれば自分の利益は10、社会全体が外出自粛し、コロナが早期収束した上、自分だけは外出できれば、自分の利益は早期収束に加えて外出もできたことで10+5=15になります。他方、社会全体が外出自粛せず、コロナが早期収束しないのに、自分だけが外出自粛した場合の自分の利益は0、社会全体が外出自粛せず、自分も自粛せずに外出した場合の自分の利益は5となります。この結果、個々人のレベルでは、社会全体が外出自粛するか、しないかにかかわらず、自分は外出した方が有利になります。これでは、外出自粛は進まず、新型コロナウィルス感染症は早期収束しません。
この状況を変えるためには、例えば、外出自粛に10の補助を出したり、外出に10のペナルティを科して外出による利益を5−10=-5にしたりして、個々人のレベルで最適な行動(ナッシュ均衡)と社会全体として望ましい結果(パレート最適)を一致させることが考えられる、というお話です。

賃金上昇に関しては、政府としても、いわゆる賃上げ促進税制として、賃金上昇額の一定割合分の法人税から控除する仕組みを導入していますが、果たして、どうなるでしょうか。ナッシュ均衡とパレート最適を一致させ、企業の行動を変容させるには至らないような感じもします。
もちろん、このようなコスト(減税による補助)をかけずに、社会全体が自ら最も望ましい行動(パレート最適となる行動)をとってくれれば一番良いのですが。

2022年6月13日

労働生産性について

日本は労働生産性が低いということが以前から言われています。
公益財団法人日本生産性本部の資料によれば、2020年の日本の時間当たり労働生産性はOECD加盟38か国中23位、1人当たり労働生産性はOECD加盟38か国中28位だそうです。
それに関連して、「日本の賃金水準が低いのは、労働生産性が低いからだ」とか、「日本では無駄な業務が多く、効率が悪い働き方をしているから、労働生産性が低いのだ」というようなことも言われているように思います。
上記のように言われると、あたかも、従業員が悪い(だから、賃金が低くても、やむを得ない)かのようにも聞こえてしまいますが、そうなのでしょうか。

「生産性」とは、投入した資源(インプット)に対してどの程度の成果(アウトプット)が算出されたかを図る指標であり、「成果(アウトプット)÷資源投入量(インプット)」の計算式で示されます。労働生産性の場合は、「労働から得られた成果÷労働投入量」となります。

しかし、一口に労働生産性と言っても、「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2つがあります。「物的労働生産性」は、労働投入量に対してどの程度の生産量(生産個数等)があったかに基づく指標であり、「付加価値生産性」は、労働投入量に対してどの程度の付加価値が新たに生み出されたかに基づく指標です。
一般に、「日本の労働生産性は低い」と言われる場合、後者の付加価値生産性が用いられており、GDP(ドルベース)が国内で新たに生み出した付加価値に相当するものと見て、「GDP÷就業者数」(1人当たり労働生産性の場合)や「GDP÷(就業者数×労働時間)」(時間当たり労働生産性の場合)で計算された数値が国際比較されていると思われます。

昨日、物価上昇に関するコラムを書きましたが、付加価値生産性の国際比較をする場合、各国の物価水準の差違は、考慮しなくてよいのでしょうか。
公的機関による正式な統計ではありませんが、各国の経済力を比較するための指標として、「ビッグマック指数」と呼ばれるものがあります。マクドナルドのビッグマックは各国でほぼ同一品質で販売されていますが、その販売価格がいくらであるかを参照することにより、各国の経済力(国民の購買力)を比較しようとするものです。
あるサイトによれば、2022年のビッグマッグ1個の販売価格は、米国では5.81ドルであるのに対し、日本では390円だそうです。日本のビッグマックの価格390円は、2022年1月の為替水準(1ドル=115.23円)では3.38ドル相当(米国の販売価格の約57%)だったようですが、その後、円安が進んでおり、現在の為替水準では、3ドルを割り込んでいます。
これは、販売価格であって、付加価値(粗利益に相当)ではありませんが、労働者が同じビッグマック1個を生産したとして、それによって得られる成果を、数ではなく、価格で図ると、これほどの差が生じるのです。

しかし、物の販売価格を決めているのは、従業員ではありません。上記のように考えると、日本の労働生産性が低いのは、日本の労働者の手際が悪いからでも、怠けているからでもないことが分かります。
2020年の時間当たり労働生産性は、米国が80.5ドルであったのに対し、日本は49.5ドルで、米国の3分の2程度(約61.5%)しかなかったと言われるのですが、同じ時間をかけて同じ物を同じ数だけ作ったとしても、日本では米国の6割程度の値段でしか売れないわけですから、当然の結果と言えます。

更に言えば、日本の労働生産性が低いのは、個々の企業の販売戦略(価格決定)が悪いからでもないのでしょう。
各企業としても、日本の国内市場の状況にかんがみ、「値段を上げたくても、上げられない」(値段を上げると、売れない)状況ではないかと思われるからです。
これは、日本の社会経済情勢が置かれた構造的要因によるもので(高付加価値の商品を生み出す先端的分野の企業がどの程度存在するかといった、産業構造の違いもあるかとは思いますが。)、もはや、個々の労働者や企業の力だけでは、如何ともし難い状況に陥っているように思われます。

諸外国では賃金水準がどんどん上がっていく中、日本だけは2〜30年前から賃金水準が変わっていないなどとも言われています。OECDの統計によれば、2020年の年間平均賃金は、米国69,391ドルに対し、日本は38,515ドルで、米国の約55.5%しかありません。お隣の韓国は41,960ドルで、既に日本を追い抜いています。ビッグマック指数でも、今や、韓国や中国の方が日本より上になっています。
経済が日本国内だけで完結している限り、国内の物価の上昇率と賃金の上昇率は均衡していて、諸外国との差違は問題となりませんが、現実問題として、輸出入を考えないわけにはいきません。

現状、日本は世界3位の経済大国ですが、いつまでその地位を保てるでしょうか。
昨日のコラムにも書いた「値上げができない→賃金が上がらない→益々値上げができなくなる」という悪い循環を断ち切るような抜本的対策を講じなければ、成長していく諸外国を横目に、日本及び日本人の経済的地位は更に下がっていくのではないかと懸念しています。
いつか、日本人が外国へ出稼ぎに行き、日本国内にいる家族に仕送りをするというような時代になってしまわないでしょうか。
物価が安い日本に来た外国人観光客は喜んでくれるでしょうが、それは、一面では、日本の経済的地位が低下している証左でもあるように思われ、日本人としては、「インバウンドがたくさん来てくれた」と単純に喜んでばかりはいられないようにも感じています。

経済の良い循環を生み出すよう、企業部門も家計部門も含めて、皆が力を合わせ、意識的に取り組んでいかなければならないように思います。

2022年6月10日

最近の物価上昇(インフレ)について

最近、物価上昇(インフレ)に関する報道を目にする機会が増えてきました。
新型コロナウイルス感染症の影響による世界的な景気減速からの急激な回復とそれによる需給逼迫、原油等のエネルギー価格の高騰、ロシアのウクライナ侵攻による影響、日米の金利差による円安の進行等、様々な原因が説明されています。

日本でもここ数か月の物価上昇は顕著ですが、諸外国の物価上昇幅は、日本よりも格段に大きいようです。直近(2022年4月ないし5月)の消費者物価(生鮮食品を除く)の上昇率は、日本が対前年比2.1%増であるのに対し、米国は同8.3%増、ユーロ圏は同8.1%増でした。いわゆるデフレマインドが染みついていると言われる中、日本国内の物価上昇は輸入価格の上昇に引っ張られている面があり、国外との物価上昇幅の差違やエネルギー価格の高騰、円安等は、一過性のものというよりは、構造的な問題のようにも思われますから、当面、日本国内でも物価の上昇は続くのではないかと思います。

物価上昇も、景気拡大に伴う「良いインフレ」であれば、問題はありません。数日前、日本銀行の黒田東彦総裁の発言内容がニュースになりましたが、政府、日本銀行にも、そのような方向にしていきたいという期待感があるのでしょう。ちなみに、諸外国では、労働需給も逼迫しており、物価だけでなく、賃金もかなり上昇しているようです。しかし、個人的には、日本国内の今の物価上昇が良い循環になっていくような予感があまりしません。海外から輸入した原材料を用いて、日本国内で商品やサービスを販売する企業を念頭に置いた場合、原材料の価格上昇をそのまま日本国内での最終販売価格に反映させにくいとすれば(デフレマインド)、その企業が利益を維持するためには、原材料価格以外のところでコストを削減するほかありません。そのような状況下では、経営者としても、「従業員の賃金を上げよう」という考えには、なかなかならないだろうからです。

賃金が増えず、物価だけが上昇する中では、一般の市民・国民は生活防衛に走らざるを得ず、節約志向となって、より安い商品を求めるようになるのは必然です。そうすると、企業としては、安易に値上げをすることはできず、原材料価格の上昇を商品の最終販売価格に反映させられない(反映させるとしても、一部に止まる)こととなり、それが原因で賃金上昇も抑制されるという悪い循環が生じてしまいます。原材料価格の上昇が最終販売価格に反映されるまでに時間差があるとはいえ、2022年4月の企業物価指数は対前年同月比で10.0%上昇(速報値)しているのに対し、消費者物価指数(生鮮食品を除く)は同2.1%上昇と大きな差があるのは、日本国内のこのような状況を反映しているように思えてなりません。

上記のような悪循環を断ち切るためには、私たちひとりひとりが、デフレマインドを払拭し、闇雲に安いものばかりを求めることはせずに、物やサービスに対して適正な対価を支払うという態度を身につけること、また、企業や経営やとしても、内部留保に走らず、従業員との間で適正に利益を分かち合うことが大事なのだろうと思います。

とはいえ、これは理想論であって、実現するのは容易ではありません。
個々の生活者や企業の単位では、上記のようなことが頭の中では分かっていても、「世間がどうなるか、しばらく様子を見よう」(=「皆がそのようにするなら、自分もそうするけれども、皆がそうしないのに、自分だけがそうしたら損をする(自分だけが高い物を買うことになったり、自社だけがコスト高になって競争力が下がったりする)から嫌だ」)となるのは、やむを得ないように思います。私自身も、そう考えてしまいますから。
しかし、これでは、いつまで経っても、悪循環を断ち切ることはできませんね。

このため、皆の行動を一斉に変容させる必要があるのであり、そのような「仕掛け」ができるのは国だけなのかなと思ったりもしますが、具体的な方策を思いつくわけでもなく、つくづく、難しくて根深い問題だなと考えさせられます。

「景気は気から」とも言います。
あれこれ考えすぎず、もう少し前向きな気持ちで日々を過ごしていけばよいのかもしれませんね。


2022年6月9日

過労死の報道に接して

ここ数年で、過労自殺に関する痛ましい報道を何度か目にする機会がありました。

死ぬために働いていたのではないはずなのに。
あまりにも重いことで、自ら死を選ぶ瞬間のご本人の心理状態については私には想像することすらできませんが、そこに至るまでに毎日どのような気持ちで会社に通っていたのかと少し考えてみるだけで、何ともいえない気持ちになります。

「千と千尋の神隠し」で、千尋は湯婆婆に名を奪われ、自分の本当の名を忘れそうになります。
何者かに支配され、本来、忘れることなど絶対にあるはずのない自分の名を忘れる、自分が何者であるかが分からなくなってしまう、自分が本当は泣きたかったのだということも。
幸い、千尋はハクにそのことを教えられ、自分の名を思い出しますが、私たちも、これと紙一重のところにいるのかもしれません。

過労自殺ではなく、突発的な労災の死亡事故を念頭に置いたものではありますが、私が大阪労働基準局で研修をしていた時、ある労働基準監督官が、「朝、家族は『いってらっしゃい』と送り出し、夕方には、当然、いつものように元気に家に帰ってくると思っている。まさか、今日、死ぬかもしれないなんて微塵も思っていない。それなのに、帰ってくるはずの人がもう二度と帰ってこない。これほど悲惨なことはないんだ。だから、労災事故は絶対に起こさせてはいけないんだ。」とおっしゃっていました。

人口が減少していく中で「日本の国力を維持するためには…」というような話を耳にすることもあり、マクロで見ればそれはそのとおりだと思います。
しかし、私たちは、国力や経済成長率を維持するための記号(数値)ではありません。
会社という組織においても同様でしょう。

彼は、彼女は、機械ではありませんし、牛や馬などの家畜でもありません。人なのです。
そして、その人には、その身を案じ、帰りを待っている家族がいます。

この極めて当たり前のことに皆が少しずつ思いを致せば、悲しい思いをする方が減るのではないかと思います。

2018年9月27日

働き方改革について

近年、働き方改革ということが言われています。

個々の政策についての意見はいろいろあるだろうと思いますが、「従業員がいきいきと働ける環境を実現することにより、従業員の意欲と生産性が高まり、ひいては、会社の利益も向上する」という理念を真に実現しようとするのであれば、大変すばらしいことではないかと思います。

法理論的には、雇用契約も双務契約の一種であり、使用者と労働者は相対立する契約の当事者として捉えられるわけですが、会社にとって従業員は大事なビジネスパートナーであり、相互の理解と信頼関係があってこそ、会社としても、発展と成長が望めるのではないでしょうか。
奪い、奪われる関係性において両者を捉えていたのでは、ひょっとしたら短期的には利益が得られるかもしれませんが、長期的に見た場合には、従業員のモチベーションが下がる、有望な人材が流出する等といった問題が起こり、会社にとっても決して良い結果はもたらさないないように思います。

交渉理論においても、相手を出し抜くのが良い交渉ではなくて、取引をした結果、お互いの効用が高まる「Win-Win」の関係を実現できるのが良い交渉というのがありますね。

従業員も感情を持った人間です。
日頃から「会社は自分を大事にしてくれているな。」と思えているのと、そうでないのとで、いざという時に、どれだけ会社のために頑張ってくれるかには、自ずと差違が生じるのではないでしょうか。

これは、従業員側でも同じことで、会社の事情も考えずに自己の権利・利益ばかりを主張していたのでは、会社と良い関係を築くことはできないのだろうと思います。

相互理解の下に長期的な信頼関係を築き、共に発展していく。
理想論かもしれませんが、そのようにありたいし、あってほしいなと思っています。

事業主の皆さまは、めまぐるしく変わる社会・経済環境の中で、少しでも利益を上げて生き残っていかなければいけない大変厳しいお立場にあるわけですが、一度、上記のような視点についても考えてみていただければ幸いです。

2018年8月30日

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