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日本型雇用システムについて

「終身雇用」「年功序列賃金」「企業別労働組合」のいわゆる「三種の神器」が日本型雇用システムの特徴であるとされています。

昨今では、このような日本型雇用システムを見直すべきだという議論もよく聞かれますが、労働法の解釈は、日本型雇用システムが現に存在することを前提として、判例法理により積み重ねられてきたものであり、各制度は相互に関連し合って成り立っているものですから、そのうち一部だけを全く別の仕組みに変えてしまうということは、容易ではありません。

日本型雇用システムの最大の特徴は「メンバーシップ型雇用」にあるのではないかと思われますが、以下では、日本型雇用システムを前提としつつ、私が「このように考えれば、労働法の仕組みが理解しやすくなりますよ」と思う内容をご説明していきたいと思います。

以下に述べるのは、あくまで私見ですので、この点は、予めご了承ください。

「メンバーシップ型雇用」とは

「メンバーシップ型雇用」と対置されるのは「ジョブ型雇用」です。

「ジョブ型雇用」とは、企業内の労働について特定の職務(ジョブ)を切り出した上で、その職務に従事するために必要な労働者を雇用するという仕組みです。ジョブ型雇用では、労働者が従事する職務の内容は労働契約で予め決まっており、それ以外の職務に従事することはありません。
欧米ではこの「ジョブ型雇用」が主流であるとされています。

これに対し、「メンバーシップ型雇用」では、労働者が従事する職務の内容は労働契約で予め決まっておらず、各労働者がどのような職務に従事するかは、採用後に、使用者の命令によって定められることになります。いわば、個別の職務内容よりも、「会社の一員になること」が優先されるような契約形態であり、それ故、「メンバーシップ型雇用」と呼ばれています。
日本の雇用システムや雇用慣行の多くは、「メンバーシップ型雇用」であることと密接に結びついており、その論理的帰結であるといえます。

雇用形態について

労働者の雇用形態には、正社員、契約社員、パートタイマー等があります。
これらは法律上の概念ではありませんので、明確な定義が定まっているわけではありませんが、概ね、次のように区分されます。

《正社員》
期間の定めのない雇用契約(無期雇用契約)に基づき、フルタイムで業務に従事する労働者。給与は月給制で、賞与が支給される場合が多い。退職金は、ある場合とない場合がある。

《契約社員》
1年契約等、期間の定めのある雇用契約(有期雇用契約)に基づく労働者。フルタイムで業務に従事し、給与は月給制で支給される場合が多いが、日給制や時給制の場合もある。賞与は、ある場合とない場合があり、退職金は、ない場合が多い。

《パートタイマー》
正社員よりも所定労働時間が短く、給与は時給制で支給される場合が多い。ただし、いわゆるフルタイム・パート等、正社員と同等の所定労働時間である場合もある。賞与及び退職金は、ない場合が多い。期間の定めは、ある場合とない場合がある。アルバイトもパートタイマーの一種であるが、アルバイトは学生等が一時的に労働する場合を指すことが多い。

※ 派遣労働者は、派遣会社(派遣元)との間で雇用契約を締結した上で、派遣先の指揮命令に従って業務に従事する労働者であり、派遣先との間には直接の雇用契約関係はありません。


「メンバーシップ型雇用」における「メンバーシップ」は、基本的に、正社員(期間の定めのない雇用契約に基づき、フルタイムで業務に従事する労働者)を対象としています。

これに対して、正社員以外の雇用形態(派遣労働者を含む。)のことを「非正規雇用」という場合があります。

採用

「メンバーシップ型雇用」では労働者が従事する職務が特定されていないため、特定のスキルではなく、一般的・潜在的な職務遂行能力に着目して労働者が採用されることになります。そのための指標として学歴に着目され、毎年41日付けで新卒者を一括採用することが多いです。
ここでは、学生時代に何を勉強してきたかがさほど重視されることはなく、また、学生が、採用前に、職業訓練を受けるなどして、会社の即戦力として活躍し得るような職業能力や具体的スキルを身につけておく(その上で就職活動を行う)というようなこともありません。「日本の大学生は勉強しない」などと言われますが、その原因の1つに上記の実情があるでしょう。
「ジョブ型雇用」の場合、職務経験やスキルの蓄積に乏しい若年者は不利であり、失業率が高くなりがちです。しかし、「メンバーシップ型雇用」で新卒一括採用が行われている日本では、諸外国に比して若年者の失業率が低く抑えられています。もし、「ジョブ型雇用」に移行し、新卒一括採用をやめるのであれば、学生時代から職業能力を身につける仕組みを取り入れる等、学校教育の在り方から見直しをしていくことが必要不可欠ではないでしょうか。

採用は、その人を「仲間」として認め、メンバーシップを付与するかどうかの判断をする場面になります。したがって、労働者の人間性(誠実さや協調性、場合によっては、従順さ、打たれ強さ等)が重視されることとなります。「体育会系の運動部や応援団の出身だと就職に有利」などと言われるのも、このことと無縁ではないでしょう。
解雇が厳しく制限される反面、採用の場面においては、使用者側の採否の自由が広範に認められており、思想・信条等を理由とする採用拒否も違法とはされていません(三菱樹脂事件・最高裁判決昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁)。これは、「メンバーシップ型雇用」の必然的な効果であるとともに、「解雇はなかなか認められない代わりに、入口(採用)のところでは企業の裁量を広く認める(=労働者の雇入れを押しつけるところまではしない)」という形でバランスを取ろうとしているのではないかと思われます。
 

嘘をついて「仲間」になろうとすることは、「仲間」としての不適格性を表すとともに、使用者の採否の自由を侵害するものとして、厳しい評価を受けます。このため、経歴詐称は解雇理由の1つとなります。

採用内定

新規学卒者の採用においては、在学中に就職活動が行われ、実際に就労を開始するより何か月も前の時点で採用内定の通知がなされることが一般的です。「ジョブ型雇用」を前提とする諸外国では、特定のジョブに必要な人材をその都度雇い入れるため、このようなことは起こりません。「採用内定」は、日本の特徴的な仕組みの1つです。

「採用内定」は、法文上の概念ではなく、明確な定義が定まっているわけではありませんが、採用内定により就労始期付き・解約権留保付きで労働契約が成立するものと解されており(大日本印刷事件・最高裁判決昭和54年7月20日民集33巻5号582頁)、企業からの採用内定通知が書面でなされた時をもって「採用内定」とすることが多いです(入社誓約書を提出させて学生を拘束したこと等も考慮されます。)。

採用内定前に口頭で通知される「内々定」についても、明確な定義がないため、事案によりますが、「採用内定」ほど拘束力が強いものではなく、採用の確定的な意思表示と見られない場合は、採用内定の予約に止まり、労働契約の成立までは認められないことになるでしょう。

学校を卒業できなかった場合など、所定の解約事由が発生した場合には、労働契約は解約(内定取消)されることになります。
しかし、「採用内定」もメンバーシップの付与であり、一旦これが認められた以上は、使用者が自由に撤回することは認められず、解雇に準じた扱いを受けることになります。すなわち、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認できる場合でなければ、内定取消をすることはできません(前掲最高裁判決昭和54年7月20日)。
このような解釈の背景には、「新卒一括採用及び終身雇用を前提とする日本型雇用システムの下では、他社への入社を辞退するなどしてこの時期(採用内定の時期)を逃してしまった学生が、内定取消後に遅れを挽回し、内定取消企業と同等の条件を有する他の就職先を新たに探し出すことは困難」という状況認識があるのではないかと思われます。

試用期間

試用期間は、一般に、解約権留保付きの労働契約であると解されています(三菱樹脂事件・最高裁判決昭和481212日民集27111536頁)。
試用期間でも既にメンバーシップは付与されていますから、採用内定の場合と同様に(あるいは、現に就労が始まっていることから、それ以上に)、解約権の行使(本採用拒否)は制限されます。
試用期間に留保された解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりは広く認められるものの、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認できる場合でなければ、許されません(前掲最高裁判決昭和48年12月12日)。
この解釈の背景には、日本型雇用システムの下においては、転職は容易ではないことがあるものと思われます。また、「メンバーシップ型雇用」では、労働者が特定のスキルを有することを前提として労働契約が締結されているわけではなく、採用後に教育訓練等を通じてスキルを身に付けていくことが予定されていることにも、留意する必要があります。「ジョブ型雇用」において、特定のスキルがあることを前提として採用されたにもかかわらず、実際にはそのスキルがなかったとすれば、本採用拒否されたとしてもやむを得ないと思われますが、そのような場合とは異なるのです。

職務内容

「メンバーシップ型雇用」においては、労働者が実際にどのような職務に従事するかは契約時に具体的に特定されておらず、採用後、使用者の業務命令により決定されることになります。「就職」というより「就社」という方が実態に近いかもしれません。
労働者が自ら納得の上で合意した職務に従事するのではなく、使用者が一方的に指定する形になることから、労働契約の従属性(労働遂行に際しての命令・服従関係)がより色濃くなる面があるように思われます。

職種限定契約、勤務地限定契約等の例外もないわけではありませんが、一般に、人員配置については、使用者に非常に広い裁量が認められています。このため、労働者は、原則として、使用者から命じられた仕事を拒否することはできません。

職務内容が予め特定されていないため、個々の労働者の職務の範囲が不明確になりがちで、メンバーシップにおける「仲間意識」と相俟って、「付き合い残業」が生じたり、「有給休暇が取りづらい」等といった問題が発生する原因の1つになっていると考えられます。

配置転換、転勤

人員配置の広い裁量が認められる結果、使用者は、労働者の個別的同意を得ることなく、配置転換(勤務地の変更を伴わない職務や部署の異動)を命ずることができるものとされています(日産自動車村山工場事件・最高裁判決平成元年127日労判5546頁)。

そればかりでなく、勤務地の変更を伴う異動(転勤)であっても、労働者の個別的同意を得ることなく、業務の都合により転勤を命ずることができるものとされています(東亜ペイント事件・最高裁判決昭和61年7月14日集民148号281頁)。
当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合には、転勤命令が権利の濫用として無効になるとされていますが、共働きで幼少の子供がいるとか、高齢の親の介護をしなければならないとか、単身赴任になる等といった事情では、「家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のもの」であるとされてしまい、転勤命令の無効は容易には認められません。

「解雇が厳しく制限される代わりに、人員配置については使用者に広範な裁量を認める(=それによって、少しでも生産性を上げる方策をとる道は残す)」という考え方ではないかと思われます。
逆に言えば、「職務が限定されておらず、他の職務への配置転換が可能なのだから、何か問題がある場合であっても、解雇以外の選択肢をとる余地はあるでしょう(=解雇は最後の手段としてしか認めない)」という考え方に繋がるものと思われます。解雇ではなく、賃金支払の要否が問題となった事案ですが、疾病のため従前と同じ職務に従事することができなくなった労働者について、「現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、…当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供がある」と判断された例もあります(片山組事件・最高裁判決平成1049日集民1881頁)。

これらは、特定の職務に従事することが労働契約の内容となっている「ジョブ型雇用」との違いであるといえるでしょう(「ジョブ型雇用」では、「ジョブ」の変更には労働者の同意を要する一方、業績不振等でその「ジョブ」自体がなくなったのであれば、解雇はやむを得ないとされやすい。)。

出向、転籍

出向とは、労働者が自己の雇用先の企業(A社)に在籍したまま、他の企業(B社)の従業員(又は役員)として当該他の企業(B社)の業務に従事することをいいます(在籍出向などとも呼ばれます。)。これに対し、転籍とは、労働者が自己の雇用先の企業(A社)から他の企業(B社)へ籍を移して当該他の企業(B社)の業務に従事することをいい、労働者とA社の間の労働契約関係が終了する点が出向と異なっています(転籍出向、移籍出向などと呼ばれることもあります。)。

出向・転籍は、配置転換・転勤と同じように、企業の人事管理の手段として行われることがあります。ただし、人事異動の範囲が元の雇用先の企業(A社)内にとどまらず、他の企業(B社)に及んでいる点で、配置転換や転籍とは本質的に異なるということができるでしょう。要するに、出向・転籍は、職務内容や勤務地だけでなく、「誰が使用者であるか」まで変更するものなのです。

出向については、「会社は従業員に対し業務上の必要によって社外勤務をさせることがある」等の就業規則の規定や採用の際の同意などがあれば、労働者の個別的合意がなくても、使用者は、その包括的な規定や合意を根拠として出向を命じることが可能とされています(新日本製鐵事件・最高裁判決平成15年4月18日集民209号495頁)。使用者が変更されるとはいえ、元の雇用先(A社)との労働契約関係が残っているので、出向先(B社)が倒産等した場合でもA社に復帰し得ることなどが念頭に置かれているのではないかと思われます。このように出向を広く認めるところも、労働契約における合意内容を重視する諸外国とは異なる、日本型雇用システムの特徴の1つといえるでしょう。
ただし、出向命令が権利濫用と認められる場合には、出向命令は無効となります(労働契約法14条)。労働条件が大幅に下がる出向や復帰が予定されない出向などは、企業経営上の事情等によってその必要性が十分に認められるものでない限り、権利濫用となる可能性があるのではないかと思われます。

他方、転籍については、労働者の個別的合意を得なければならないこととされています(千葉地裁判決昭和56525日労判37249頁、東京地裁決定平成4131日判時1416130頁等)。転籍の場合は、元の雇用先(A社)との労働契約関係が終了してしまうため、就業規則の包括的規定や入社の際の包括的合意だけでは足りないと解されています。

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